歯周病と糖尿病との深い関わり
2019/12/16
歯周病と糖尿病の深いかかわり
- 「歯周病とは」
歯周病は、歯肉、歯根膜、セメント質および歯槽骨で構成される歯周組織が破壊される炎症性疾患です。
平成17年度歯科疾患実態調査結果から、日本人の約70%の人に何らかの歯周病の症状が認められ、特に成人では、ほとんどの人が軽度の歯肉炎から重症の歯周炎に至るまで、様々な病態の歯周病に罹患しています。
さらに、現在では若年層にまで罹患状況が拡大しています。歯周病は、歯と歯肉の境目に付着するプラーク細菌やその代謝産物と生体細胞との相互作用の結果、炎症反応や免疫反応を経て、歯肉の炎症や歯槽骨の吸収などの臨床症状を発現し、進行します。その過程に環境因子や遺伝因子が加わり、多様な病態を示し、重症化します。
このように歯周病のリスクファクターは、歯周ポケット内に存在する歯周病原細菌と遺伝子により支配されている体質、そして、喫煙、ストレスならびに食生活に代表される生活習慣の三要素からなっています。 - 「全身疾患の引き金、増悪疾患としての歯周病」
米国における大規模な疫学的研究によって、歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があることが次第に明らかになっています。退役軍人局での25年以上にわたる長期的研究の結果、調査開始時点で歯槽骨の吸収度21%以上の人は、20%以下の人に比べ、1.85倍高い死亡リスクを示しました。また、歯槽骨の吸収度が20%増すと,死亡率が51%増加することも明らかとなりました。
従来は、血液疾患、発育異常、代謝異常や感染症などの全身疾患が歯周組織の状態を悪化させる全身的因子として考えられていました。しかし、ここ数年の間、ヘルスケアにおける口腔と全身との関連性が科学的に追求されたことにより、歯周病が心臓疾患、糖尿病、呼吸器疾患といった一般的な全身疾患に密接に関係していることが明かにされています。さらに、歯周病が早産・低体重児出産に深く関わっていることも報告されています。 - 「歯周病と糖尿病のかかわり」
糖尿病と歯周病の関係では、糖尿病患者は生体防御機能が低下しているため、歯周病原細菌に対する易感染性により、歯周病に罹患しやすく、治癒しにくいと考えられています。現在、糖尿病患者は非糖尿病患者と比べて、2~3倍高い歯周病罹患率を示しています。逆に、歯周病患者は、歯周局所で炎症性因子(IL-1,TNF-α、PGE2など)が持続的に産生され、これらの物質がインスリンの作用を阻害するため、糖尿病に罹患しやすく、病状の進行も速いと考えられています。このことから歯周病は糖尿病の6番目の合併症として注目されつつあります。
最近注目を集めていることは、2型糖尿病患者では適切な歯周治療によりHbA1cの値が改善する可能性があることです。すなわち、適切な歯周治療が行われると歯周局所の炎症が改善されるため、TNF -aなどの局所に産生される炎症性因子の産生が抑制され、その結果、インスリン抵抗性が改善されるためにHbAlcの低下が起こることが予測されます。 - 「歯周病の克服」
これまで、歯周病は不可逆的な慢性疾患であり、年齢とともに悪化し、ほぼすべての人が罹患すると考えられてきました。しかし、近年の歯周病に関する疫学調査結果から、重篤な歯周病は検査集団の8~12%に過ぎず、それ以外は、軽度から中等度の歯周病であり、口腔内に関心をもち、十分なプラークコントロールを行うなどの生活習慣の改善によって、予防、治療、維持管理が十分可能であることが明らかとなっています。誰もが長寿を謳歌するうえで、健康で文化的な毎日が送れる生活の質(QOL)を高めることが大切です。その一助として、歯周病を克服することが急務と考えられます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
生体硬組織再生学講座 歯周病学分野
和泉 雄一 教授
歯周病治療で血糖コントロールを
糖尿病と歯の病気は無関係と思うかもしれませんが実は大いに関係があります。糖尿病の患者さんで血糖が高い人は虫歯や歯周病(歯槽膿漏)にかかりやすくまた悪くなりやすいことが分かっています。また、反対に歯周病にかかっていると糖尿病の状態(血糖)が悪くなるといわれています。
- 糖尿病とはどういう病気か
- 歯周病と糖尿病の不思職な関係
- 歯周病治療で血糖コントロールを!
についてお話をしていきたいと思います。
- 糖尿病とはどういう病気か
現在日本では40歳以上の人を検査すると5人に1人は糖尿病か境界型糖尿病であるといわれています。糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度(血糖)が高くなってしまう病気です。血糖を長い間高いままにしておくと、血管が長期間ブドウ糖濃度の濃い血液にさらされるため、全身の血管が痛んで、眼・腎臓・神経・心・脳・歯周・足など様々なところに合併症を起こしてきて、生活の質が低下します。もちろん糖尿病と診断されたその日から治療をし、血糖を正常までコントロールしていると合併症は全く起こらず、糖尿病でない人と同じ生活を送ることができるという少し不思議な病気です。 - 歯周病と糖尿病の関係
最近、糖尿病の患者さんには歯周病の患者さんが多いことが分かってきました。血糖が高いと、唾液の中の糖分も高くなります。また、細菌に対する抵抗力がなくなるため細菌が繁殖しやすくなり、歯肉の血流も悪くなります。こういった様々な要因が組み合わさって糖尿病で血糖コントロールの悪い患者さんは歯周病になりやすくまた悪化しやすくなるのです。
さらに、歯周病があると、血糖値が高くなることも分かってきました。歯周病の治療を徹底的に行った研究では歯周病の改善に伴い血糖値も改善したと報告されました。すなわち、血糖値が高いと歯周病になりやすく、歯周病があると血糖値は高くなりやすく、歯周病をよくすると血糖値もよくなるということがわかってきたのです。 - 歯周病治療で血糖コントロールを!
歯周病の治療は食事・運動に加えて糖尿病の治療のひとつになると考えられるのではないでしょうか?さらに、歯周病改善に役立つことが糖尿病状態の改善にもつながるということがそのほかにも多くあります。“よくかんで食べる”ということは唾液の分泌をよくして歯の自浄作用を高めます。そればかりでなくゆっくり食べるということにつながり、満腹感を感じやすく血糖上昇スピードも緩やかになるなど糖尿病にも良い習慣です。
また肥満の改善は歯周病改善ばかりでなく糖尿病の改善・予防にもつながります。さらに丁寧なブラッシングは、歯周病の治療であり、食後の間食防止にも役立ちます。
歯周病治療で血糖コントロールを!
健康な歯と良好な血糖値を目指していきたいと思います。
長崎病院内科
日本糖尿病学会研修指導医
千葉 泰子